| 血液中に存在する通常の糖タンパクは側鎖末端部にシアール酸・ガラクトース基と続く複雑なマルチアンテナ型のオリゴ糖鎖構造を有し複雑な階層構造をなす複合体を形成しています。それらが古くなり寿命が尽きるとともにアンテナ糖側鎖の最先端に位置するシアール酸が切れ、前末端基のガラクトースが露出したアシアロ糖タンパク質になります。肝臓のアシアロ糖タンパク質レセプターはその末端構造の変化を識別しながら取り込み、細胞内で消化する機能をもっています。このレセプターによる複雑な天然の糖タンパク質の認識をできる限り単純にミミック(模倣)してみようという発想で、合成マトリックス(バイオミメティックな糖タンパク質)の設計を追求しました。
このポリマーは疎水性の高いポリスチレン主鎖に親水性の高いラクトース(ガラクトースーβ1.4?グルコース)が側鎖としてモノマー単位毎に結合している構造であるので両親媒性を示します。水中で高分子ミセルとなって存在しておりいろいろなプラスチック材料に吸着法により安定にコートできます。このスーパー合成マトリックス(PVLA)の肝細胞に対するいろいろな機能制御の例や組織工学的応用についてこれまで報告してきました。
たとえば第1に、PVLAコート表面が肝細胞にのみ認識される性質を応用して肝臓を構成する他の非実質細胞(類洞内皮細胞、星細胞、クッパー細胞等々)との混合集団から容易に肝細胞のみを接着させ分離することが可能です。その接着構造であるアシアロ糖タンパク質レセプター(ASGP-R)とβガラクトースポリマー(PVLA)との相互作用にはCa2+イオンが必須なのでEDTAなどのキレート剤処理によって接着細胞を簡単に脱着・回収して再利用することができます。もちろんそのままの接着状態で肝細胞培養システムとして利用することも可能です。ここで用いたPVLAコーティング条件(100μg/ml)にサイトカインEGFを加えるとEGFの細胞移動促進因子(motogen)としての活性が強調的に誘導され2?3日後には肝細胞内分化機能および生存性の高まるスフェロイド(Spheroid
, 細胞の球状集合体)が形成されます。これは人工肝臓として現時点では最も有望な肝細胞の存在状態と考えられています。
一方、上記条件(100μg/ml)からさらに低濃度のPVLAコート条件(1μg/ml)に変えると、接着肝細胞の形態が伸展(spreading)し、ここにEGFを加えるとEGFの増殖因子(mitogen)としての活性が強調的に発現し、接着肝細胞のDNA合成(細胞増殖への指標)が高まることも見いだされています。すなわちEGFというサイトカインシグナルの肝細胞内での経路をPVLAのコーティング濃度の制御によってスイッチさせることに成功しました。これは細胞生物学的に重要なブラックボックスの解明に人工マトリックス工学がツールを提供した実例です。PVLAのポリスチレンディシュへのコーティング濃度を前述の低濃度(1μg/ml)からさらに2桁近く希釈し、15?20ng/mlとすると、接着しない肝細胞が0.5?1%程度得られることがわかりました。この細胞分画は検討の結果ASGP?レセプターの発現(m-RNAおよび細胞表面レセプター数)が顕著に少ないことが確認されています。しかも驚くべきことにDNA合成能が接着細胞に比べ高く、分化度が低いことが判明しました。こうしてPVLAの新たな用途として増殖細胞の高い細胞分画の濃縮(enrichment)が浮かび上がってきたのです。このようにPVLAを用いて肝細胞プロセッシングにかかわるさまざまの成果をPVLAのコーティング濃度を変えることによって得ることができました。
人工臓器の設計の設計・開発は、いまや臓器移植のつなぎ(ブリッジ)として補完物としてだけではなく、本格的な代替医療手段として期待に応える必要性に迫られています。ここで主として述べてきたように、臓器機能の実質的な担い手となる細胞を自由自在のプロセッシング(分離・機能制御)し、組織を再構築するために新しい人工マトリックス材料・サイトカイン放出制御材料の設計・開発が展開されつつあります。さらには遺伝子導入等を通じて細胞機能の増強からin
vitro 、in vivoでの3次元組織形成を有利にするアプローチも試みています。
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